はじめに
線形代数*1に関しては、2年くらい(?)前に本を読んでから特に知識のブラッシュアップをセずに放置していて、最近ちょっと細かい内容で不安を感じることがあったので一冊本を読むことにした。今回は
齋藤正彦著『線型代数入門』(東京大学出版会)
を選んだ。
ちなみにこの本を選んだ理由は次の3つ
- 昔読みかけたがギブアップしたのでリベンジしたい
- Jordan標準形の構成が代数学チックで最近の本ではあまり見ないやりかただと聞いたから
- そもそも有名な本だから
パッと2,3日で読んでおしまいにしようとしたのだが、意外と手こずってしまった。
おおまかな内容
第1章 平面および空間のベクトル
高校数学でやりそうな、ベクトルの幾何学的な意味や取り扱いを説明している。ぶっちゃけつまらない章だとは思うけれど、線形空間や線形写像の概念を2,3次元で具体的に述べている"伏線"だと捉えることもできる。
第2章 行列
題名通り、行列を導入する。演算と各種行列(正則とか直交とか)を導入して、1次方程式との関わりと階数(rank)も説明する。基本変形や階数の説明に古さを感じなくもない。
置換と置換の符号を導入して、n次元の行列式の定義を行う。さすがにこれはどの本で見てもあんまり変わらないなあ。
集合・写像の概念を簡単に説明してから、線形写像・線形空間を導入する。説明自体はわかりやすいと思ったがそもそも抽象的な概念なので、さすがに入門書として通用するにはもうちょっと練習問題を増やしてゆっくり説明したほうが良かったんじゃと思わなくもない。
固有値、固有ベクトルの定義や計算の話はさらっと済ませて、ユニタリ行列・直交行列の話や、二次形式などの応用の話が多く含まれている。オイラー角についてははじめて勉強したのでちょっとおもしろかった。
第6章 単因子およびジョルダンの標準形
行列の「単因子」と呼ばれる概念を導入してジョルダン標準形の定義や計算をさらっと述べてある。ぶっちゃけ難しくてよくわからなかった。
第7章 ベクトル及び行列の解析的取り扱い
ベクトル値や行列値をとる関数の解析学について簡単に書いてある。行列のべき乗とか行列のノルムとかは物理や工学の本ではよく見かけるが、数学書できっちり書いてあるのは初めて見たので新鮮ではあった。
まとめ
最近の本と比べると正直読みにくいと思ったし、記法や記号の古さも目立った。良かった点は
- (最近の本と比べると)例や練習問題の量が最小限だけど、扱っている内容はかなり豊富
- 抽象的な線形写像の議論が多く取り入れられている
- 行列の解析的な取り扱いや、代数学の内容など、やや高度な内容にも触れられている
- そこそこ安い(1900円)し、安価な古本を探すのもきっと容易
悪かった点は、
- 用語や記法が少し古い
- 具体的な行列の議論より線型写像の議論が中心だが、そのせいかごちゃごちゃになっている部分もある
- 定理や系などがどういうモチベーションで示されているかの説明が必ずしも多くないので、なぜそのようなことを示しているかが(初学者にはたぶん)わかりにくい
- 入門書としては例や練習問題が少なすぎる
最終的な結論:用語の古さや記述の不親切さから線型代数初学者には勧められないが、(私のように)復習や2冊目の勉強としては悪くないのかもしれない。一見薄めの入門書なのに、内容が豊富かつ高度なので初学者殺しの一冊といえる。大学に入ってすぐの右も左もわからない人間にこの本を入門書として勧めるのはただの嫌がらせである。