自分支援機構

10年後には黒歴史

『我々は生命を創れるのか』を読んだ

本日連投いたします。本の感想記事です。今回読んだのはこの本です。

藤崎慎吾著『我々は生命を創れるのか』(講談社ブルーバックス、2019)
 「生命」と呼ばれうるものを実際の生命の要素を用いずに化学的に合成することを目論む合成生物学の分野の概要を説明する啓蒙書です。言ってしまえばその分野の入門書に近いような本であると言ってもよい気がします。
 本書は非専門家の著者が複数の合成生物学の専門家とのコミュニケーションを通じて学んだ情報を整理して提示するという体裁で書かれています。そのため、複数の専門家の誰に肩入れするでもなく第三者の視点から意見を紹介していたり、専門用語の説明が非常に丁寧だったり、初心者にも非常に読みやすい本になっていると感じました。おおむね中学理科+αくらいの知識がある人が読めば十分に理解できる内容だと思います。
 しかしながら、多くの研究内容の説明が妙に人物本位になっていてしかも日本人研究者に限られていたり、通常の日本語で説明しても十分にわかりそうな内容に妙に長いたとえ話を付与していたり、合成生物学との関連があまりに薄そうな内容を意味もなくこじつけて関連付けたエッセイのようなものを掲載していたりと、純粋な入門書として読むにはあまりにノイズが多い本でもあると思います。学術的な内容の説明が非常に優れている(少なくとも私はそう感じる)だけにこのような文体になっていることは残念であると感じました。著者はかなり経験豊富なライターのようですので、おそらく科学関係の書籍を読みなれていない読者への優しさとしてこのような書き方を選んだのだと思いますが、ブルーバックスで概説書を読もうとする人には向いていなかったのかなと思います。