自分支援機構

10年後には黒歴史

放送大学授業の感想(2020年度2学期)

 おはようございます。支援機構です。放送大学の授業の感想を書いておきます。授業以外のことに関しては過去の記事↓をご覧ください。
ngskshsh.hatenablog.com
また、入学したきっかけ云々も過去の記事↓をご覧ください。
ngskshsh.hatenablog.com
 本記事では授業と印刷教材(テキスト)の感想を書きますが、授業の感想を書くときには印刷教材との関連性を考えるのに対し、テキストの感想を書く際にはあくまで授業とは独立したテキストとして書きたいと思います。これは、印刷されて市販される教材は授業や解説などとは独立してそれ単体で勉強して勉強可能なようになっていなければならないという支援機構の強い思想によるものですので、本ブログの読者の方は我慢してください。

授業の感想

 授業・印刷教材・試験の総合的な感想です。あくまで個人の意見です。

量子化学('19)

 前期量子論から入って分子軌道と分光学の入門的内容を取り扱う、量子化学としてはなかなか駆け足の授業です。この授業も2コマくらいに分けたほうがいいんじゃないかなという内容の詰め方ですが、物理の科目ほどめちゃくちゃではありません。素朴な波動とのアナロジーを利用した前期量子論的な概念から導入される量子力学の説明はかなり丁寧でわかりやすく*1、後半の軌道や分光の説明をしている部分も授業の説明は丁寧だったと思います(にしてもテキストは相当詰め込んでるなあという感じですが)。
 単位認定試験もテキストの文面だけみて各文の正誤を判定するだけでは解くことができないものになっており、ある程度ちゃんと内容を勉強せざるを得なくなっていて授業としてはいいと思います。

場と時間空間の物理('20)

 Twitterでさんざん文句を言いましたが、正直褒めにくい授業です。分厚くもないテキストで15回の授業に非常に多くの内容が詰め込まれていて、はっきり言って無理があります。断言しておきますが、ハイレベルな授業だから内容が多いのでもなく、授業が上手だから多くの内容を取り扱えているわけでもなく、ただただ無理な内容を無理な時間に詰め込んでいるだけです。物理以外の内容に関して下手なことは言い難いですが、私は大学で物理学を専攻して一応は学位を得ており、この点に関してはそれなりに確信をもってそうだと言えると思います。Twitterでは放送大学の物理の授業はレベルが高いという意見を見かけますが、私の見解では無理に高度な内容を無理なスピードで詰め込んだ授業が一応存在しているというだけであって学生が(Twitterにいる優秀な人や私のような既修者を除いて)それについていけているわけでもなく、内実が伴っていないように感じます。
 本書で取り扱われている内容はおよそ電磁気学と相対論であり、授業の内容に誤りや不備があるわけではないと思います。なのにどうして問題があるかというと、本来上記の内容を十分に教えるには(かなり上位の大学であったとしても)2~4コマ程度は90分の授業をする必要があるからです。そんなボリュームを45分15回の授業に押し込んでいるために、本来電磁気学の学習を行うのに必要不可欠な計算練習や例や演習問題などが極端に少なくなっています。私はすでに電磁気学と相対論の一部(特殊相対論)を勉強したことがあるのでこのような授業でもある程度理解することができますが、かなり優秀な初学者でもこの授業で内容を十分に理解することはほぼ不可能だと思います。この授業を理解できなかった放送大学の学生同志各位は自分のせいじゃないのでまったく気にしなくてよいです。
 以上のような問題点がある授業であるにも関わらず、放送大学の授業として成り立つためには一定数の人数が単位を取得する試験を行わなければなりません。そこでどうなるかというと、通信指導と期末試験の問題の半分以上が計算するでもなく考察するでもなく歴史的な内容や法則を日本語で説明した意味などの選択問題になるわけです。そういう問題があってはいけないとは思いませんが、それだけで単位が取得できるほどの分量が出ているのは物理の試験として致命的だと思います。あくまで教養学部の授業なのでこれでOKだということであればわからなくもないですが、もしこれが物理学の授業だということで物理の単位として認められるのであれば、私を含めた大学で物理を専攻してきた人たちが必死に勉強して取得してきた電磁気学や相対論の単位は一体何だったのでしょうか。そういう悲しい気分になるような問題です。素直に内容を絞って(せめて電磁気学と相対論を分けて)もうちょっときちんと問題を作ったほうが物理の授業としてはまっとうなものになるんじゃないでしょうか。
 文句ばかり言うのも申し訳ないので良かった点を書いておくと、上記のような問題を少しでも回避するためのトピックの取捨選択は非常に巧妙なものになっていて、理屈だけいえば電磁気学から入って相対論まで勉強する場合の最短ルートに近い授業になっていると思います。

漢文の読み方('19)

 この学期に履修した科目で一番面白かった科目です。いわゆる漢文を訓読法で読むのではなく文法的に読んでいくタイプの授業で、テキストを見ながらひたすら講師の語りを聞き続けるタイプの大変な授業です。通常の訓読法からの接続も工夫されていて取り組みやすいです。また、テキストが非常に体系的で細かいことまで書いてあるので、それ単体でしかるべきリファレンスとして十分な内容を備えていると思います。後半の購読パートも単に文法的な説明にとどまらず思想や歴史や人物背景などの説明に及んでいて勉強になりました。
 また、単位認定試験もかなり気合が入っていて正直私にとっては難しかったです。未知の長文を読まされて、その文法的な構造や解釈、内容などを回答しないといけないのですが、文章が本当に未知なのでけっこう苦労しました。ほかの科目もこれくらい気合を入れてほしいですね(卒業率がもっと残酷なことになりそうですが)。

テキストの感想

 一応最後にテキストの感想を書いておきます。授業とは切り離したテキスト単体の感想ですのでご注意ください。放送大学生ではない人で、テキスト(※市販されてます)のみ購入して勉強したい人には参考になるかもしれません。

量子化学('19)

 前期量子論の最初の入門から入って、分子軌道を導入して結合・反応の理論を勉強し、最後に量子論的な分光学をかなり高度なところまで取り扱う以外に高度なテキストです。ちょっとずつ高度な例を取り扱いながらどんどん内容を深めていくような形式になっていて、ある程度微積分や電磁気学ができる学生であればなんとか単独で読んでいけると思います。特に分光学の部分は電磁波の量子論的な取り扱い(いわゆる半古典論)や対称性の取り扱いなどにも触れられていて、かなりレベルの高いテキストになっていると感じました。
 この本のちょっと読みにくい点を挙げるとすれば、序盤の導入部分の丁寧さと後半に様々な高度なトピックを導入していく部分の行間の広さにかなりギャップがあることです。一冊でそこまで行くのはちょっと無理があるんじゃないかなと思いました。

場と時間空間の物理('20)

 真空の電磁気学から始めて一般相対論まで説明した非常に密度の高いテキストです。通常のA5サイズで20mmもないテキストに上記内容が記載されているため、授業と同様に具体例の計算や練習問題などがほとんど存在せず、単独で読んで勉強するには困難なテキストになっています。式変形がわりと丁寧だったり得られた式の解釈が日本語で丁寧に書いてあったり初学者に易しくしようとした形跡はあるのですが、初学者は素直に電磁気学と相対論のテキストをそれぞれ購入して普通に勉強するのがよいと思います。
 しかしながら本テキストには下記に示すような優れた点も存在するので、その点をわかったうえですでにある程度学習が進んだ人が持っておくのは悪くないのかなとも思います。第一に、本書は真空の電磁気学から始めて一般相対論に至るまでの広範な内容を一貫してかなりスムーズな接続で説明しています。こうした書籍の例は他にもあると思いますが、私が思い浮かぶランダウの『場の古典論』などと比べると本書はずいぶん読みやすく、電磁気学と相対論をまとめて学ぶテキストの一冊として選択肢に入ると思います。
 第二に、この本はやたら物質中の(静)電磁気学に詳しいことです。8,9章で誘電体と磁性体の電磁気学を扱っており、この部分はなんでこんなにここだけ詳しいのか不思議なくらい詳細な内容が扱われています。たぶん岸根先生の趣味なのだと思いますが、ここは物性をやる人が誘電と磁性のイントロを勉強するにはいい感じだと思います*2

漢文の読み方('19)

 漢文をあくまで古典中国語であると捉えてその文法を説明した文法書に原点購読を加えたような体裁の本です。高校漢文でやるような訓読法を文法的な構造(統語構造)を読み解くために利用していて、通常の漢文学習からの接続もかなりなめらかになるようになっています。前半の文法パートはいかにも文法書という感じの網羅的かつ構造的な内容になっていて、一発で読んで頭に入るタイプの本ではないですがリファレンスとしては利用しやすい形態です。ここまで体系的にやるのであれば目次をもう一段下の項目まで示してほしかったです。最初の二章は特に言語学的な説明が多く、そうした説明が苦手な人はしり込みするかもしれませんが、三章からはかなり具体的な文法説明に入るので大丈夫だと思います。後半の購読パートは単に文法的な説明があるわけではなく時代背景や思想を紹介したり注釈文も紹介するなど、扱っている文章は短いですがかなり濃厚な勉強ができます。
 強いて文句を挙げるとすれば、ページ数節約のためか例文・書き下し文・日本語訳が詰めて記載されていて読みにくい点や、後半の購読パートの文法的説明が前半とあまりリンクしていない点などがあると思います。

*1:私自身は前期量子論は嫌いで判然としないなあと感じるのですが、あまりそういう文句ばかりいうのは控えておきます。

*2:とはいえそういう用途であっても中山正敏著『物質の電磁気学』(岩波書店)の方がおすすめです