自分支援機構

10年後には黒歴史

【実録ルポ】オタク、SUBWAYに行く!!

 ある日、私は駅前で途方に暮れていた。私はしばしば夕食をその駅前で済ませているのだが、通いすぎていつもの店に飽きてしまったのだ。普段の私であればそのような店は一瞥もくれずに立ち去るのだが、少し前にそのメニューの複雑さが評判になっていたこともあり、SUBWAYなるファーストフード店を訪れることにした。本記事は、私のような「陰」の限界にあるオタクが「陽」の象徴たるおしゃれなファーストフード店を訪れるとどうなるのかを実体験を以て示すものである。後から思い返して書いているので細かいセリフなどに相違点はあろうが、ほぼ完全に実体験のみを説明したということを最初に約束しておこう。
 卑しく愚かな人間であるところの私は、まず駅のトイレにこもってスマートフォンを用い、SUBWAYなる太陽の象徴がどのような食物を提供するのか調べることにしました。実際のところはみなさんも適当にググって調べていただくとして、今回は無難にサンドイッチにドリンクとポテトが付く「コンボ」というものを注文することにした。全てを暗記し、決意を固め、私は排便した。全てを終えると同時に、私はSUBWAYの店舗に向かって歩き出した。
 SUBWAYの店舗では、若い女性が店員として前に立っていた。近づいていくとその女性と目が合った。率直に、見下されていると思った。私はその目を知っていた。学生時代、クラスの女子たちが私を見るときの蔑んだ目だ。
「お前のような気持ち悪い人間が何を気取ってSUBWAYなど訪れいているのか」
おそらくそのようなことを心の内に秘めながら接客していたのだろう。当然の心情であることだ。
 私は次のように告げた。
「生ハム&マスカルポーネのサンドイッチ、コンボでお願いします」
返答は確かこうであった。
「パンはどれになさいますか?」
想定内の反応だ。その蔑んだ目も含めて。
「セサミでお願いします」
一番おいしそうだったし。
「パンは焼きますか?w」
いや、接客業の人間が声にまで笑いを入れるなよ。もうちょっと蔑みの心を隠せよ。
「いえ、いいです。」
今回はやめておこう。
「野菜で何か苦手なものはありますか?(ここ曖昧。単純にどれを入れるか聞かれたような気もする。)」
生のタマネギが苦手なので抜いてもらうことにした。
「レッドオニオンだけ抜いてください」
すると、
「かしこまりましたwwww」
こいつ、思いっきり笑ったぞ。悪いか?悪いのか?大の大人がタマネギ嫌いで何が悪い?!生じゃなきゃいくらでも食えるんだぞおい!
 まあいい。とりあえず、店員はサンドイッチを作り始めたようだ。手際よく野菜と生ハムをパンに詰めている。そろそろドリンクの種類を聞かれるはずだと思ったが、その予想は外れだった。
「こちら、有料のトッピングとなっておりますが何かお付けしましょうか?」
そうか、そういうものもあった。ここは当初の予定通り、
「い、いえ、結構です。」
別に金を払いたくなかったわけではないが、単純に心惹かれるトッピングがなかったのだ。
「かしこまりました(笑)。では、こちらの無料のトッピングはいかがですか」
トッピングに金を払わないのがそんなに悪いことか!なぜ私は容姿が気持ち悪く、身の丈に合わないファーストフード店を訪れているというだけでこれほどまでに屈辱を味わっているのか。まあいい、無料トッピングの存在は忘れていたが、愚鈍な私でもなんとかその場で答えを出すことができた。
「あ、はい。お、オリーブとホットペッパーをお願いします」
私はどんどん動揺を隠せなくなってきている。これはよくない。ここでようやく待っていた質問が来た。
「ドリンクは何になさいますか。」
「アイスティーをお願いします」
「かしこまりましたwwwwww」
なんだその嘲笑は?!気持ち悪いオタクだからコーラを頼むとでも思っていたのか?このあたりになってくると、私は怒りというよりむしろ悲しみの感情に支配されるようになってきた。なぜSUBWAYを訪れて食事をしようというだけのことでここまで人に馬鹿にされなければならないのか。好きで気持ち悪い人間に生まれたわけではない。オタクには好きでなったわけだが、別に何ら法を犯しているわけではない。なぜここまでの責め苦に苛まれることになっているのか。私にはもうSUBWAYが信用できない。
 そうこうしているうちにサンドイッチは完成し、ドリンクも用意されていた。そして最後にこう聞かれたのであった。
「ポテトの味が3種類ありますが、どれになさいますか。」
そういえばそういう選択もあった。選べるとは知らなかったが、即座にこう答えたのだ。
「ハーブソルトをお願いします」
「かしこまりました(笑)」
このあたりになってくると、店員の笑いよりむしろ、私の後ろに並んでいる人間が私をどのように見ているかが気になってきた。顔すら見ていないが、その雰囲気から次のような思考であることは間違いなかった。
「なぜお前のような気持ち悪い人間が我々高等生物の社交場に来て空気を吸っているのか。その汚らわしい魂でこの場を汚す前にさっさと出ていけ。」
全くもってその通りだ!この場所は私が来るべき場所ではなかった!これは一生の恥だ!私のような、愚かで、汚く、異臭を放った人間が来るような場所ではなかったのだ。平日の夕方、仕事終わりに軽食を嗜む優雅で高貴な方々のくつろぐ空間に私は分不相応にも立ち入り、それだけでなく料理を注文してそれをその場で食べようとしている。なんという愚行!私は自己の欲望を満足させるために他の人間の尊厳を傷つけているのだ。
 代金を支払うと店員の女性はこう言った。
「ごゆっくりどうぞ。」
つまり、これは私のような人間はいるだけで営業妨害だからとっとと出ていけということだ。慈悲深いことに、今なら警察も呼ばずに出ていくだけで済ませてくれるのだろう。私は浅ましくもそのことに数分気付かず、席に着いてあまつさえそのサンドイッチを食べようとさえした。だが、周囲の人たちから向けられる、
「なぜお前がここにいる」
「早く出ていけ」
という目線によって店員の温情に気付き、即座に席を離れて飲食物をすべて廃棄し、トレーを所定の場所に返して店を出たのであった。
 その帰途、私は涙が止まらなかった。法律を犯さず、ある程度の納税をしているというだけで、自分が他の市民と同一の権利を持った人間であると勘違いしていたことに気付いたのである。私はSUBWAYなどという良き市民が訪れる店を利用するに足る人間ではなかった。私のような汚らわしく愚かで存在しているだけで他人を不幸にする人間は行くべきではなかったのだ。これを教訓に、二度と他人の権利を侵さないようにしようと、そう心に誓ったのであった。
 この記事を読んでいる気持ち悪いオタクの各位は、私の教訓から学び、分不相応な外食店を訪れないようにしてほしい。あなた自身が傷つくのではなく、他人をも傷つけてしまうのだから。
 ちなみにその晩結局空腹に耐えきれずコンビニで買ったサンドイッチを食べた。