自分支援機構

10年後には黒歴史

『詳説 漢文句法』(筑摩書房)にざっと目を通した

はじめに

 おはようございます。支援機構です。先日の記事↓で紹介したように、漢文をかなり久しぶりに勉強しようとしています。
ngskshsh.hatenablog.com
そこで、いわゆる「文法書」にあたる句形について書かれた本を読むわけですが、そこで私が世間に溢れる書籍から探し出してきたのが次の本です。

詳説 漢文句法

詳説 漢文句法

三上英司編著『詳説 漢文句法』(筑摩書房、2017)
今回は、この本を”ざっと”読んだ感想を書いていきたいと思います。普段の記事では「○○を読んだ」というタイトルにしているのですが、今回の記事では「ざっと」というフレーズを強調しています。これは単に、情報量が多くリファレンスとして用いるべき書籍であるために、とりあえず目を通して後からこの本を参照できる状態にしたという意味です。これは記憶力の乏しい私の甘えからくる発言なのですが、ぶっちゃけこの手のテキストは全部覚え込む必要はなくて、その都度必要に応じて該当するページを自力で探し出せる状態になれれば十分だと考えています。文章などを読むために該当ページを調べているうちに、必要な分はだいたい覚えてしまうだろうという魂胆です。
 とはいえこの手の文法書をリファレンスとしてのみ使うのもたまに抜けや勘違いを生む原因となるので、文章を読む練習をある程度積んだと感じた段階で、改めて通読するのもよいと思います。最初の通読は"脳内に目次を作る"ためのものですが、経験を積んだうえでの再読は、いわば自分の中にできた骨格に肉を付ける作業です。"だいたいわかった"状態で詳細を見ると非常に得るものが多いわけです。高校生&浪人生の時分、このように英語を勉強してある程度読めるようにはなったと思います。今では見る影もありませんが。はっはっは。とにかく、「だいたいこういう内容があるんだったよな」というのが思い出せるようになる程度に本文をざっと目を通したのでその感想を記事にしておこうと思います。

本書の内容

 この本の内容に触れて感想を書いていきます。ざっと読んだだけなので、もしかしたら細かい部分に何らかの問題点や誤りなどがある可能性はありますが、そもそも私は漢文について何ら専門的な知識を持っていないため、間違いに気付けないのでどうでもいいことです。もしこの本が誤りだらけなのだとすれば、しかるべき人が指摘してくれると思います。しかしそれは私ではない。

第一部 基礎編

 基礎編には、漢文というのがどういうものなのかということと、訓読法の考え方と、一部の注意すべき漢字(置き字、返読文字、再読文字)についての解説が書いてあります。さすがにこのあたりは覚えているのですらすら読んで細かいことを確認しながら進むことができました。
 このパートを読んで受けた感想として、常に用語の定義が明確に与えられているということがあります。例えば本書では「再読文字」の定義として、日本語の文法で解釈すると複数の要素を持つために訓読の際に2度読む漢字であるということが説明されており、非常に明確な理解をすることができます(日本語の古典文法を一定以上理解していることが前提とも思いますが)。高校生の頃であればこのようなことに気付かなかったことと思いますが、一応最低限の知的トレーニングを受けた今となってこの手のテキストを読み直してみると意外と明解な記述が与えられていて驚きます。大学受験の参考書の中でも特に内容を軽くしているようなものでは、この手のきっちりした説明や定義を省いて直接的な使い方や訳し方などにフォーカスしすぎてしまい、かえって理解がしにくくなっているものもあるように思います(そういう参考書がダメと言いたいわけではないです)。

第二部 句法編

 第二部には、各種句法の構文・読み方・意味などが詳細に記述されています。常に日本語の古典文法と対照させるような記述があり、意味と書き下し文の対応関係が非常に明確にわかるような記述になっているのが特徴的だと感じました。下半分の脚注?の部分のフォローが非常に充実しているのも特徴です。古文の活用を参考に載せていたり、細かい情報を載せていたり、追加の例を紹介していたり、とにかく余白を使いつくして情報を紹介しようという意思を感じます。この本が600円で買えるってマジ?とりあえず文章を読みながら適宜ここに戻ってこられるように句法の説明と例文はざっと読みました(覚えたとは言っていない)。
 基本的に文句は何もないのですが、唯一欠点を挙げるとすれば文章の構成がわかりにくいことです。例えば二章の「疑問・反語・詠嘆」の見出し構成が非常に見にくくて、大見出しが構文の作り方、中見出しが漢字の種類、小見出しが意味(「疑問」や「反語」など)の種類になっていて、その下に各句法が並んでいるわけですが、字下げや見出しの目立ち具合などに差が付けられていないため、次の見出しに移った時に今どの階層の見出しが動いたのかわかりにくいです。TeXのn.m.lみたいな表記に慣れ過ぎたのかもしれません。

第三部 語彙・資料編

 最後に資料が載っています。語彙編にはよく出る漢字の意味と用例が載っていて、受験生がきっちり単語を覚える場合や、漢字辞典を引くまでもないような状況で参照するのに非常に便利です。私は読んでいないですが。私の場合は、実際の文章を読んでいて必要な語彙に出くわしたら本書を参照し、載っている語彙であれば重要な語彙だと判別してきっちり記憶し、そうでなければ辞書で確認だけして「ふーん」と思うことにしておきます(要するに語彙の重要さチェックに使いたいということです)。
 また、第三部の後半には古代(~近世くらいまで?)中国の政治や文化に関して漢文を読むにあたり最小限必要とされる程度の説明が与えられています。非常に簡潔にまとまっているので、例えば世界史のテキストや国語便覧の方が詳しいと思いますが、簡潔で最小限なのがかえって読みやすくて頭に入りやすい分量だと感じます(私の頭に入ったとは言っていない)。大した分量でもないので受験生などは熟読するのがよいと思います(上から目線)。

全体の感想

 第二部と第三部の語彙編を斜め読みしておいて総評を述べるのは申し訳ないですが、一応ざっと目を通したので感想を書いておきます。私は本書をいわゆる「文法書」を読むつもりで読もうとしたのですが、実際に読んでみるとすでに構文解析の終わったテクストの構文の記号の読み取り方を学ぶような科目であると感じました。過去の漢学者の先生が訓点を付けてくれているということはもうすでに文法的には解明されているということであり、いわゆる「古典」で学ばれる漢文はあくまでその記号を読解する手法なのだというわけです(語彙や内容の理解は別として)。その意味では漢文は「古典中国語」ではなく日本語の古典であり、高等学校の過程において漢文が日本の古典として学ばれている理由の一端が分かった気がします。
 古典やら漢文やら過去の偉大な先生の思想やらをやたら褒め散らかすタイプのパターナリズムは死ぬほど嫌いではあるのですが、それはそれとして日本における古典中国語の解釈史ともいえる漢文の読み方を勉強することは語学的には面白いことであり、高校生ぶりにその一端に触れられたことは意外に楽しい体験でした。放送大学の授業である「漢文の読み方」の方も、まあ面白く履修していければと思います。それではみなさんおやすみなさい。