自分支援機構

10年後には黒歴史

『電気電子計測(第二版)』を読んだ

 こんばんは。支援機構です。就職してクッソ暇になったのに全然記事を書いていないことに気付いたので今回はサクッと書ける記事をやっていきます。今回読んだのは次の本です。
廣瀬明著『電気電子計測 (新・電気システム工学) 』(数理工学社、2015年)

電気電子計測 (新・電気システム工学)

電気電子計測 (新・電気システム工学)

  • 作者:廣瀬 明
  • 発売日: 2015/01/01
  • メディア: 単行本
本屋で良さそうなのを見繕って帰ってからAmazonのレビューを見たらクッソ評判悪くてちょっと笑いました。

きっかけ

 どうして急に電気の本を読み始めたかというと、今年は夏に電気主任技術者の試験を受けようと思っているからです。時間もお金も(以前よりは)あるし、日物と日程が近いのを気にしなくてよくなったのでなんとかなると信じています。そこで勉強をするわけですが、本屋で立ち読みをしてもあまり電験の参考書類が好きになれません。議論の途中を省いて結果だけ受け入れて、あとは練習問題をこなすというスタイルがあまり好きではないんですね(そこまできっちりやるのは資格の対策書の域を超えていますし)。なので心と時間に余裕のある5-7月のうちは普通に電気の専門書を読んで勉強していくことにしました。
 電験の1次試験は「理論」「電力」「機械」「法規」の4科目があるのですが、その中でも理論科目の内容は主に次の4つに分類することが出来ると思います。

  1. 電磁気学(←わかる)
  2. 電気回路(←わかる)
  3. 電子回路(←少しわかる)
  4. 電気・電子計測(←あまりわからない)

今回はこの中で唯一よくわからないことの多い分野である計測について勉強することにしました。
 この本を選んだのに大きな理由はないのですが、ある程度理由を挙げておくと比較的出版年が新しくて詳しそうで読みやすそうな本で、しかもその日見に行った本屋に置いてあるという条件を満たしたのがこの本だけだったからです。ぶっちゃけパッと見の印象です(あと内容の量のわりに他の本より安かったし)。

この本の内容

 内容を剽窃にならないラインで説明しながら感想などを書いていきます。

第1章 計測の位置付けと基本概念

 計測を勉強していくにあたってのイントロダクションが書いてあります。電気工学の専門書のはずなのですが計測の重要さを語る例として黒体放射とマイケルソン・モーリーの実験が挙げられていて、確かにこれを電気系の学生が読んでもよくわからんだろうなあと思いました。

第2章 統計的な性質と処理

 これは題名通りの章です。我々人間が測定する何らかの量は、個数みたいな離散量でもない限り必ず誤差が伴います。したがってかならず誤差を考慮して取り扱う必要があります。誤差論や統計処理はそれだけで一冊の本になるのでこの章に書いてあるのはごく一部ですが、重要な部分の復習にはなると思います。

第3章 単位と標準

 現代のSI単位系の概要と、高精度測定を行うための量子現象の利用などについて書いてあります。デシベル表記の周辺知識とトレーサビリティの話は初めて知ったので勉強になりました。それはそうと、量子現象を用いた高精度な測定として、ジョセフソン接合と量子ホール効果について触れられているのですが、いくらなんでも説明があっさりしすぎていて、そりゃこれだけ見ても元々知識がないとよくわからないよなと思いました。攻めてるというかやりすぎというか……

第4章 指示計器

 主に磁気的な性質を利用して電流や電圧、電力などの大きさを指し示す方法を説明する章です。大学で使っていた測定機器はほぼすべてディジタル表示だったので、こういった針が動くタイプの計器を使ったのは小学生の頃が最後かもしれませんね。いずれも教科書でしくみを見ている分にはなるほどという感じなのですが、実際どうやって較正して精度を確保しているかを考えるとやはり装置メーカーはすごいと思わざるを得ないです。

第5章 指示計器による直流計測

 直流の電圧や電流を測定する方法について書いてあります。私が誤解していなければ、いろいろ回路上の工夫はあるものの基本的には可動コイル型指示計器によって電流や電圧を測るか、ブリッジを用いて零位法で測るかということだと解釈しました。

第6章 指示計器による交流計測

 今度は交流の電流や電圧、あるいは電力を測定する方法が書いてあります。ただし、よく読むと交流電力の実効値と交流ブリッジによる回路素子の測定方法しか具体的な方法が書いておらず、交流の電流や電圧を測定する方法が意外と載っていなかった気がします。あるいは今後の章に書いてあるのでしょうか。

第7章 計測用電子デバイスと機能回路

 端的に言うとMOSFETおよびオペアンプによる増幅回路と機能回路について書いてあります。私自身は多少は電子回路の知識もあるし実際にオペアンプで回路を作ったこともあるので何が書いてあるのかわかりましたが、初見の人がこの章に書いてあることを理解するのは難しいと思います。電気・電子系の標準的なカリキュラムを知らないので何とも言えませんが、電子回路を一通り勉強してから計測の授業があるとも思えないので、そりゃこの教科書を指定されたら学生たちも困るだろうという感じです。あれもこれも書こうとして初心者が読みにくい本になっている感じがすごいですね……

第8章 ディジタル計測

 ぶっちゃけ現代の科学的な計測でディジタル化していない測定を行うことなんてあまりないです。したがって本来はアナログ量であるはずの物理量を離散化するにあたって注意すべき点を頭に入れておくことは大事です。私も大学院生の頃にある実験で測定できるはずの信号が見えないことがあって、よくよく考えたら大事な部分とは関係ないデータの離散化誤差が必要なデータを全部食いつぶしていたことがありました。下手するとこの章が一番重要ですね。内容について触れておくと、A/DおよびD/Aコンバータの回路を初めてちゃんと知ったのですが、特にA/Dの方のうまくパルスを利用したやり方はよく考えたなあと思いました。みんなも離散化誤差と桁落ちで一か月分の実験時間を溶かさないようにしようね。

第9章 波形

 要するにオシロスコープの章です。周期的な信号を観測する場合は、下手に数値データと格闘するよりオシロで直接波形を見てしまうのがよい場合もあります。この章あたりから計器の中身の説明が具体的な回路ではなくてブロック図のような概念的なもので与えられることが多く、マジの回路を作ろうとするとめちゃくちゃ難しいんだろうなあと察しました。あと、サンプリングオシロスコープという装置のことは初めて知りました。いろいろ工夫するとサンプリング周波数以上のものを見ることもできるんですね……。それはそうと、9章より10章を先に持ってきて周波数空間で物ごとを見る感覚を付けたほうが良い気がするのは私だけでしょうか。

第10章 周波数・位相

 信号の周波数スペクトルを見る装置であるスペクトルアナライザーおよび素子や回路などの周波数応答を確認する装置であるネットワークアナライザーの使い方を紹介するとともに、データを周波数空間で見るという考え方について説明してある本です。私の解釈では、ある信号に特定に周波数の正弦波を重畳させて、うまいこと必要な信号だけをフィルターで取り出すことによって周波数依存性を測定するための概要について書いてあるのだと理解しました。おそらくこのレベルで難易度の高い回路の詳細は私には理解できないでしょうが、各処理ごとのブロック図で説明してもらえるとかろうじてわかります。というか信号の積を作る回路ってあるんですね。それはそうと、私は物理学の知識が多少はあるのでこうしたものの考え方や装置の概要についてもある程度は理解できますが、正直この本を学部一、二年生くらいで読まされる電気系学生にはこの短く詰まった説明だけでは全然わからないのではという気がします。薄々感づいてたけどこの本って物理をやる人向けに書いてないですか(というか著者の経歴を見ると明らかに応用物理の人だし)。

第11章 雑音

 雑音については苦汁を数トン単位で飲まされてきたのでいくらでも語ることはあるのですが、一瞬で私が特定されてしまいそうなので月並みなことを書いておきます。何らかの測定をしているときにどれくらいの桁のノイズが乗っているのか把握しておくことは大事です。必ずサンプルを入れていない状態のブランク測定のデータも持っておきましょうね。単にデータの波形を見てもよくわからないことが多いですが、スペアナにかけるなりデータにFFTをかけたりすると意外なノイズが見えることがあります。$\omega$と$f$を間違えていませんか?回路的な測定をする場合はあらゆる素子がそれぞれのノイズを吐き出すため、各素子が出すノイズの特性を理解しておくことも必要でしょう。老害の語りはさておき、とにかくこういった雑音に立ち向かっていくためにはこの章に書いてあるような有名なノイズと有名なノイズ低減方法をある程度知っておくことは大事です。詳細は忘れてもいいのですが、どの本のどの辺にどういうことが載っているかをぼんやり覚えておくくらいはしておいた方がいいです。偉そうなことを書いておいて実は位相雑音については全く知らなかったのですが、信号の位相が大事になってくるような通信などの分野ではこのレベルのゆらぎにまで気を遣う必要があるんですね。

第12章 共振

 交流の入力に対する信号の位相がうまいこと揃ったり、入射波と反射波の位相が揃ったりすると共振という現象が起きます。高校物理の電磁気の分野の問題に出てくるのが有名でしょうか。うまいこと共振するとエネルギーを蓄えることができたり信号(のエネルギー)の伝達が効率良かったりするのでいろいろと使われています。そうした共振現象の概要と、共振と関連して回路素子が生み出す損失について書いてあるのが12章です。導波管とかレーザーとかこの章の説明だけ見ても何もわからないと思いますが、ここまで読んだ人にとっては今更ですよね。

第13章 伝送線路とインピーダンスマッチング

 高周波の交流を扱う場合波長が短くなってしまい、通常の回路理論では無視している電線の物理的な長さの要素を無視することができなくなります。そうした回路を扱うための方法が分布定数回路の考え方で、この理論を用いて高周波回路の扱い方について簡単に書いてあります。簡単に言ってしまうと実空間における波形も真面目に考える必要があるのが分布定数回路なのですが、その場合電圧や電流を回路上を伝わる波動として扱うことになり、回路定数の変化によって波の屈折や反射と同じような(言ってしまうと数式としては同じ)現象が起きることになります。正直この章も短いページに情報を詰め込み過ぎているので素直に伝送回路とかマイクロ波工学とか高周波の本を読んだほうがいい気もします。

最後に

 この本を読んだ私の率直な感想ですが、あれもこれも詰め込み過ぎて初学者にとっては非常に読みにくい教科書になってしまっているということです。このページ数にこの情報量はいくらなんでも無理がある。Amazonのレビューにあまり具体的ではない苦しそうな感想がいっぱい書いてあるのも納得です。電気系の人であれば、電気・電子回路や電磁気学、デバイスの理論などをある程度勉強してから読まないとキツいでしょう。一応最低限の説明は書いてあるのですが、本来その部分を理解するのに他の分野の参考書の1,2章の説明が必要なことを1,2ページでぎゅっと説明してもわからないです。この本を教科書指定される授業なんて私も受けたくないぞ。
 それはそれとして、私もざっと読んだだけなので自信はないですが、内容や説明が間違っているという意味で悪い本ではないように思います。したがって、もともと電気あるいは電子計測に詳しい人間や、物理学(特に物性)にバックグランドを持つ人間にとっては手短な分量で計測に関する知識を詳細に説明したテキストであると解釈できなくもないです。事実、私にとっては(たまにわかりにくい装置の説明はあれど)読みやすく勉強になるテキストでした。図もいっぱいあるし適度に数式を使って説明しているし演習問題に解答もついているしいい本です。
 今回はざっと読んだので演習問題は1/3くらいしか解いていないですし、細かい用語は読み飛ばして記憶まではしていませんが、今後この分野の知識を必要とする際の見取り図というかロードマップと呼べる程度の事前知識は習得てきたと思います。これだけ盛りだくさんのテキストで2250円+税は安いぞ。