自分支援機構

10年後には黒歴史

物性実験物理で修士まで卒業するために勉強したこと

 こんにちは、支援機構です。この記事では、物性実験でかろうじて修士までは卒業できた私がこれまでに勉強してきたことを(ある程度)学年順に振り返る記事です。自分のための振り返りであると同時に世間の大学生の助けになる記事であることも目指すので、わりと具体的なテキストを大量に挙げるつもりです。情けない話ですが、私は物性実験に従事する大学院生として必ずしも優秀な方ではありませんでした。なので、真面目に勉強したい人や博士進学を目指す人はこの程度の勉強では済まないかもしれません(地獄かよ)。

目次

はじめに

 最初にいくつか注意点を書いておきます。この記事は後から振り返っている書いているので、当時の試行錯誤をばっさりカットして理想の過去を作り出しています。言うなれば後付けのクリティカルパスです。したがって実際の私が完全にこの記事に示すとおりに勉強したわけではありません。特に物理と関係の浅い科目などは完全に無視していますが、もしかするとそこで得た知識なども重要であった可能性もあります。悪しからず。また、「かろうじて修士までは卒業できた」などと書きましたが、結局のところ一年も留年せずに無事に卒業できている程度には優秀な人間(つまりドロップアウトまではしていないということです)による振り返りです。本当に物理が苦手なのに物理系学科に進学してしまった人の参考にはならないと思いますし、大学一年生などがこの記事を見ると分量の多さに戸惑う可能性もあります。その点も悪しからず。また、この記事では授業の存在を基本的に無視しています。ぶっちゃけろくに聞いた記憶がないからです。また、学部四年生以後は勉強よりもむしろ研究の比率が高くなっています。具体的に何かを勉強したという記憶があまりありません。よって、ほとんどの勉強が学部三年生までに詰め込まれています。場合によっては四年生まで結構勉強していることもあると思うので、この記事はあくまで一例として見てください。

大学入学以前

 高校&浪人時代に身に着けた内容で、なおかつその後に関係のあることとしては「高校物理」、「高校数学」、「高校英語」があります。以上の三つに関しては標準的な受験生の水準は身についていたと思います。残念ながら、高校物理と高校数学が身についていない人が物理系の学科に入るとつらい思いをすることになると思います(別に卒業ができないわけではないですが、まあ大変だと思います)。英語に関しては、必ず読めなくてはいけないが、その他ライティングや会話などの能力が必要かどうかは専攻する分野や周囲の人間の外国人率によると思います。装置などの都合で大きな研究所などに出入りする可能性がある人はほぼ間違いなく話さなければならないであろうことは通告しておきます。

学部一年生

 このころはまだモチベーションも高くまじめに勉強していたような気がします。

力学

 大学一年生で最初に勉強した物理学は普通の力学だったと思います。ちゃんと細かくいうと古典力学の中でも解析力学ではない通常の力学ですね。この時期に読んでいたテキストには処分してしまったものが多く、確実にこの本だったか怪しいのですが、当時読んでいたのはおそらく次の本でしょう。

良い本ではある気がするのだけれど決して初学者向けのテキストとしてはふさわしくないタイプの教科書です。いろんなことを伝えたいあまり話が散らかっていて読みにくいです。もっとシンプルな教科書が初心者にはおすすめですね……
 古典力学は物性物理をやるうえで正直そこまで重要というわけでもないので、初心者があまり深入りしたり悩み過ぎて無為に時間を過ごしたりするのはおすすめしません。無意味ではありませんが、その時間でもっとほかの分野をやった方がいいと思います。力学に限らず、完璧を期してから次に進もうとしたり、数学的な厳密性を気にしすぎたりするとたぶん4年で大学を卒業できません。とくに後者の沼に嵌ってしまうと本当に予後が悪いことが経験上知られているので、自分がやりたいのが数学なのか物理なのかはっきりさせてから大学に入った方がよいと思います。

電磁気学(その1)

 力学とほぼ並行して電磁気学のテキストを読んでいたと思います。当時の授業の参考書だった気もするしそうじゃなかった気もしますが、当初読んでいたのは次の二冊です。

電磁気学I――電場と磁場 (物理入門コース 新装版)

電磁気学I――電場と磁場 (物理入門コース 新装版)

  • 作者:長岡 洋介
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
最近新装版が出たのでそっちのリンクを貼っておきますが、ぶっちゃけ旧版を中古で買うのがいちばんリーズナブルです。これは尖ったところがない読みやすいテキストで、わりと万人におすすめできるタイプの教科書です。多変数の微積分のやり方くらいは知っている必要がありますが、ベクトル解析はこの本で勉強できると思います。
 電磁気学は物性物理をやるうえで非常に大事な分野の一つです。物性物理学が対象にする「物性」というやつの多くが電磁気的な性質ですし、仮に電磁気的ではない物性を扱うにしても測定手法には必ず電磁気的な性質が使われています。したがって、残念ながら、電磁気学を避けて物性の分野で卒業することはできないでしょう。付け加えると、たいていの学生は電磁気学を通じて多変数の微積分に習熟することになります。なので物理学で必要な数学的な知識を身に着けるという意味でも電磁気学を避けて通ることはできません。

微積分(解析学

 大学に入って最初に学ぶ数学は、たいていの場合「微積分」と「線形代数」です。残念ながら、物理をやっていく場合どちらも避けて通ることはできません。大学に入ってしばらくはまじめに数学をする気があったし、そもそも授業の指定参考書だったということで次の本で大学の微積分に入門しました。

解析入門 Ⅰ(基礎数学2)

解析入門 Ⅰ(基礎数学2)

書いておいてアレですが初心者に勧めるには少し重い本です。細かすぎて分量が多いだけで難易度が高いというわけではないので真面目に読めばわかるとは思いますが、もうちょっと易しい本から入るのがおすすめです(具体的な本を挙げることはできないですが)。
 この本はいわゆる$\varepsilon-\delta$論法による厳密な解析学をきっちりやり切るタイプの本です。純粋数学やそれに近い分野に進む人にとっては必須の内容と言えますが、物性実験をやる(ための物理学を学ぶ(ための数学を勉強する))ためにはここまで厳密な解析をやる必要はありません。こうした基礎的な数学をきっちりやっておくことで、例えばベクトル解析や複素解析微分方程式などのより進んだ(物理でも必要な)数学を勉強しやすくなるというメリットはありますが、別にやらなくても問題ありません。大学での勉学について言及する際、「必要がないからやらない」という考え方に否定的な人を見かけることが多いですが、現実問題として時間は有限なのでなんでもかんでも端から端まで勉強するわけにはいきません。その取捨選択をする場合、この本レベルの解析学は捨てる側に入ってもおかしくないと思います。最後に付け加えておくと、この本の下巻はかなり「物理数学」と呼ばれる分野を取り扱っていますが、純粋数学をやりたい人以外は別の本で勉強した方が苦労が少ないと思います。

線形代数

 残念ながら、物理を勉強するには線形代数が必須です。これもまた世間には山のようにテキストがありますが、私が最初に読んだのは確か次の本です

線形代数学(新装版)

線形代数学(新装版)

  • 作者:川久保 勝夫
  • 発売日: 2010/09/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
今思うと具体的な行列ベクトルの話と線形空間の一般論を行ったり来たりしていて必ずしも明快な構成ではない気もしますが、普通にわかりやすく読み終えた記憶があります。学部二年くらいのときに売ってしまってもう手元にないのでちょっと記憶が怪しいですが。
 物理学で必要な線形代数はどちらかというとベクトル空間の概念とか線形空間の取り扱い方であって、とにかく対角化ができればよいというレベルでは済まないのが大変です。あるいは、量子論を学ぶにつれて少しずつ線形代数的なものに慣れていくのも悪くないと思いますが、私個人の意見としては量子論を学ぶ前にまず線形空間的をきっちり身に着けておいた方がよいと思います。本当に面倒ですよね。

振動・波動

 力学の本を読み終えたくらいで振動・波動の教科書を読み始めたような気がします。正直学部一年の頃なんてはっきり覚えてないです。当時読んだのはたぶん次の本です。

振動と波

振動と波

全然記憶にないので今ざっと読み返した感想を言っておくと、力学や電磁気学の知識があれば普通に読めて勉強になるテキストです。
 いわゆる「振動・波動論」というのは、極論を言ってしまうと「物理学で頻出する『波動方程式』と呼ばれる種類の微分方程式の解の性質や物理学的解釈を学ぶ科目」ということができます。端的にいうと物理数学の練習と言っても過言ではありません。そのことを念頭に置いて勉強するとわかりやすいかもしれません。それはそれとして、物性で必要になってくる波動というのはおそらく電磁場の波動である光や疎密波である音響などです。そっちの参考書でもかならず波動方程式の解法や解釈などは導入されるのでぶっちゃけ振動・波動のテキストをいちいち読む必要はないかもしれないです。

熱力学

 一年生の夏休みに熱力学を勉強していたような気がします。当時読んでいたのは次の本です。

熱力学入門

熱力学入門

薄くて読みやすいわりにけっこう高度なことまで書いてある本です。練習問題に解答がついていないのは普通に怠慢だと思いますが。
 物性において熱力学が大事だと言われることは多いですが、正直なところそれほど本質的なことがわかっていなくても形式的な計算(←熱力学を勉強したことがある人には通じると思います)が実行できれば十分だと思います。昨今人気がある熱力学のテキストは、この本あるいは清水先生or田崎先生のテキストだと思いますが、そのいずれもあまりその用途に適しているとは思えません。本当に良いテキストたちではあるのですが、本質的な理解を投げ捨てて目先の学位を目指す本記事ではあまりプッシュしないようにしておきます。

量子力学(その1)

 最初に量子力学を勉強したのは次の本です。今思えばよく読んだなこれ。

この本については紹介記事を書いたので詳しいことはそちらをご覧ください。
ngskshsh.hatenablog.com
一冊目には次の「量子化学」で紹介する本がおすすめです。
 量子力学は物性をやるにあたって本当に重要です。最低限の学位を得るというだけでもそれなりにきっちり勉強しないといけないはずです。現代の物性物理学の多くの議論は(それなりに高度な)量子力学に立脚しており、実験をやるにあたっても最低限の理解はしておく必要があります。というかそもそも量子力学の単位を取らずに卒業できる大学はないと思います。院試でもたぶん必要です。諦めて真面目に勉強しましょう。

量子化学

 この本は当時受けていた化学の授業のテキストだったような気がします。

量子化学―基礎からのアプローチ

量子化学―基礎からのアプローチ

計算過程やSchrödinger方程式の解の解釈がとにかく丁寧で、量子力学の入門書としてもかなり広く勧められるよい本だと思います。
 量子化学というのはそもそも分子のふるまい(特に分光的な性質)の解明に量子論を用いるという分野であり、実質は量子力学です。したがってその分野の丁寧な入門書を学ぶというのは実質量子力学の勉強ということになります。とはいえかなり化学っぽいことも勉強することになるのでどうしてもいやな場合は6章くらいまでは読んでみるとよいと思います。

常微分方程式

 物理学における基礎方程式は微分方程式なので、残念ながら解法をある程度は学ぶ必要があります。

この本は物理数学的な微分方程式の解き方から始めて数学的な理論の部分まで書いてあって薄い割にかなりボリュームがあります。実をいうと最後の方までは読み切れませんでした。
 そもそも微分方程式の参考書類には、常微分方程式を解説したものと偏微分方程式を解説したものがあるのですが、物理を最低限やっていくだけであれば前者のみで十分だと思います。物理現象を記述する方程式はたいてい偏微分方程式なのですが、どうせ変数分離して常微分方程式に持ち込むからです。あるいは、「物理数学」と題名に書いてあるタイプの本を買ってしまうのが一番楽かもしれません。

電気回路

 学部一年か二年か全然思い出せないのですが、実験の授業に前後して電気回路の本を慌てて買って読んだような気がします。

電気回路論 (電気学会大学講座)

電気回路論 (電気学会大学講座)

電子回路はともかく電気回路にたいして苦労するようなところはないので、まあ読んだら読めると思います。全部読む必要もないです。
 残念ながら実験をするうえで回路の知識は必須です。現代物理学における測定の90%以上(※主観)が電気的な回路を利用した測定です。どんなに凝った測定をするにしても最終的には電気信号になっていることがほとんどです。この本に書いてあることでいうと、三相交流とか分布定数回路などは無視してかまいませんが、少なくとも定常回路の解析だけはできるようになっている必要があります。その他電子回路の知識もあるに越したことはないですが、知識が必要になって困ってからでも大丈夫です。

学部二年生

 まだモチベーションが高いころです。

統計力学(その1)

 学部2年の春から夏くらいにかけて統計力学に苦しんだような気がします。

統計力学〈1〉 (新物理学シリーズ)

統計力学〈1〉 (新物理学シリーズ)

統計力学〈2〉 (新物理学シリーズ)

統計力学〈2〉 (新物理学シリーズ)

この本は統計力学の基礎的な部分の記述が詳しいことで有名な本ですが、初心者が読んでも普通に読めるわかりやすい本です。上下巻で値が張るのがちょっとアレですが。あと、古典統計についてあまり書いていないので物性理論っぽい本を読むときに困るかもしれません。
 物性をやるうえで統計力学は非常に重要です。その後の固体物理の勉強で必要であるだけではなく、たぶんきっちり単位が取れなければ卒業もできないでしょう。物性物理学では$10^23$個のオーダーの粒子が示す性質を取り扱います。そんな数の粒子の基礎方程式がまともに解けるわけもないので、結局様々な物性現象は統計力学によって求めることになります。

解析力学

 Newtonの運動方程式を、座標に依存しない形式に焼き直したものが解析力学です。一応次の本は読んだはずです。

量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版 (KS物理専門書)

量子力学を学ぶための解析力学入門 増補第2版 (KS物理専門書)

  • 作者:高橋 康
  • 発売日: 2000/10/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
この本は「量子力学を学ぶための」とタイトルについていますが、別に量子力学に関心がなくても普通に入門書として読める本です。
 Newtonの運動方程式を座標系によらない形式に焼き直したのが解析力学です。量子力学統計力学などは解析力学の枠組みに立脚しているので、残念ながらこれもある程度は学ぶ必要があります。しかしながら、素粒子物理をやったり理論家になりたい場合でなければこの本のような薄い本に書いてあることがだいたい把握できていればなんとかなります。もっとレベルの高い解析力学の本に書いてあるような幾何学的な体系も面白いのですが、卒業のみを目指す場合不要です。

量子力学(その2)

 前で紹介した『量子論の基礎』はあくまで基礎的な枠組みを把握するための本なので、もっと具体的に量子力学の具体的な適用や計算について勉強する本を読む必要があります。そこで読むべき本はいくらでもあるのですが、私が最初に読んだのは次の本だったような気がします。

量子力学1 (KS物理専門書)

量子力学1 (KS物理専門書)

量子力学(2) (KS物理専門書)

量子力学(2) (KS物理専門書)

めちゃくちゃ分量が多くて重い本で、実際私もちゃんと読んだのは上巻だけです。具体的な計算や、具体的な例を用いた計算問題が山ほど載っているのが特徴の本で、演習書の性格を兼ね備えています。強いて文句を言うと値段が高いことですかね…………
 物性をやるにあたってどれくらい量子力学を理解している必要があるかはケースバイケースで、断言はしにくいのですが、少なくとも摂動論や同種粒子の扱いまではたどり着いているのが必須だと思います。分野によってはスピンやDirac方程式なども大事です。いずれにせよ、この手の中級量子力学の本は(全部読まなくてもよいが)持っている必要があると思います。高いから学生には買いづらいんですけどね。

電磁気学(その2)

 前に紹介した電磁気学の本はあくまで入門レベルにすぎないので、さらに詳しい勉強をしておくために次の本も読みました。

理論電磁気学

理論電磁気学

この本は電磁気学のある程度詳しい知識が載っていることで有名な本で、わりと読んだ人や読もうとして挫折した人が多いと思います。私個人の意見としては、この本が読めるくらいの根気がなければならないが、とはいえ別にこの本を読む必要もそんなにないという感じです。式変形の書き方がすごくだらだらしているというか、整理すればもっとシンプルになるだろうと感じるような部分が本当に多くて、内容以上に書き方の面で難易度が上がっている不運な本だなという感じです。基礎方程式から始めてすべてを記述するという試み自体は非常に好きなのですが。
 物性をやるにあたってどれくらい電磁気学をきちんとやっておくべきかについてはよくわかりません。多少不遜な言い方をしておくと、私自身学部2年の段階でこの本を全部きっちり読んでしまったのでこの本を読まなかった場合のシミュレーションが難しいです。(その1)で読んだ本とこの本との間くらいの難易度の本を読むのがよいのかもしれません。

特殊相対論

物性で相対論が必要かどうかは分野によるというか、まあたいていの場合要らないのですが、私は前述の電磁気学(その2)で紹介した参考書に特殊相対論まで書いてあったのでついでに勉強しました。

理論電磁気学

理論電磁気学

Maxwell方程式(電磁気学)とGalilei変換(力学)が相容れないぞというところから始まるのが特殊相対論で、電磁気学からアプローチする本と力学からアプローチする本があります。この本は明確に前者で、運動する物質の電磁気学の考察から相対論にたどり着きます。(一般相対論に比べると)特殊相対論はたいして難易度が高いわけでもないので、勉強しておいてそれほど時間の損にもならないと思います。
 相対論があらゆる物性の分野に必須というわけでもないのですが、磁性とかスピントロニクスとか2次元系とかたまに必要な分野もあります。別にこの本でなくてもよいので、適当に易しそうなテキストを一冊くらい読んでおくのも悪くないかもしれません。

複素関数

 実際のところ複素関数論はそんなに必須というわけではありません。でも一応勉強はした記憶があって、たぶん次の本を読んだと思います。

基礎系 数学 複素関数論I (東京大学工学教程)

基礎系 数学 複素関数論I (東京大学工学教程)

  • 作者:藤原 毅夫
  • 発売日: 2013/10/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
基礎系 数学 複素関数論II (東京大学工学教程)

基礎系 数学 複素関数論II (東京大学工学教程)

  • 作者:藤原 毅夫
  • 発売日: 2014/12/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
適度に理論的なことも書いてあるし適度にお気持ちも書いてあるし物理数学としては本当にいい本だなという感じでした。なおII巻はかなりアドバンストなので必ずしも読む必要はありません。
 ぶっちゃけ複素関数論を勉強する必要はありません。理論をやらない限りたぶん全く見かけないと思います。流体力学などで2次元を扱うときに便利だったり、具体的な実積分を実行するテクニックとして用いたりはするのですが、じゃあそれは「複素関数論」なのかと言われると何とも言えません。ただし、温度Green関数の計算とかをやり始めると普通に必要なので理論家志望の人は勉強しておくのも悪くありません。

固体物理学

 「物性物理」と広い呼び方で言っていますが、やっていることのほとんどが固体物理学です。この辺いろいろと用語が込み入ってますね。最初に読んだのはけっこう有名な本です。

初心者が読むには丁寧さが足りないし、内容に古さを感じるし、あまり勧められた本ではないです。扱う内容の幅広さはいいんですけどね…………。頑張って読めばわからないわけではないので、一応私はこの本の上巻で固体物理に入門しました。なお下巻は持ってるけどほとんど読んだことがないです(下巻には各種トピックの内容が書いてあるのですが、そもそも最初からそのトピックの本を読んだほうが数倍はわかりやすいでしょう)。最初にキッテル勧めておいてアレだけど、次の3冊あたりが最初の一冊にはおすすめかもしれないです。
固体物理学―工学のために
(本当にわかりやすいけれどいくらなんでも基礎的な部分のカバーにページを使いすぎ(既読))
初歩から学ぶ固体物理学 (KS物理専門書)
(立ち読みした感じではバランスの良い入門書(未読))
固体物理学 改訂新版 (SPRINGER UNIVERSITY TEXTBOOKS)
(評判がよい(未読))
 そもそもなんですが、「物性物理学」というのはいわゆる物性(physical property)についての学問であって、固体に限った話ではありません。ガラスやソフトマターなども含めて気体ではないような固まったもの全般の物性を扱うのが凝縮系物理学(condensed matter physics)であり、その中でも特に固体を扱うのが固体物理学(solid state physics)です。ちゃんと統計を取ったことはないですが、物性をやっている人の過半数固体物理学をやっています。この記事では「物性実験物理」という分野のことを話しているのですが、実質は固体物理の実験分野についての記事です。記事の後半で言うことではないですが。

学部三年生

 人生に絶望したり人間関係に苦しんでいてほとんど勉強が進んでいない時期です。この辺から「テキストは買ったけど読みこなせず放置」が増えてきます。

統計力学(その2)

 アドバンストな統計物理の勉強として次の本に挑みました。

統計力学

統計力学

正直なところ数式は途中まで追えたけど何も身に付かなかったというのが感想です。9章あたりまでしか読んでいなくて温度Green関数までしかたどり着かなかったからかもしれません。Green関数の入門書としては本当に良い本だと思うのですが、実験家が読む必要はなかったなと感じています。
 アドバンストな統計力学のカリキュラムとして教えられるであろうことはいくらでもあります。適当にざっと挙げてみると、この本のような同種粒子の量子力学に基づく多体系の取り扱い(強相関のさわりやGreen関数など)や、相転移・臨界現象(各種モデルやくりこみ群など)や、非平衡統計力学(ゆらぎや線形応答理論など)などがあります。とても私の能力では説明しきれないので、物性で学位を得たい人は自分の大学のカリキュラムに沿った勉強をすることをお勧めします(理論家志望の人たちは全部(とは言わないまでもある程度一通り)頑張ってください)。

微分幾何学

 幾何学の勉強をしていない自覚があったので少しだけ勉強しました。

曲線と曲面の微分幾何

曲線と曲面の微分幾何

この本は微積分の知識があれば読める本ですが、具体的過ぎてちょっと面倒だなと感じる本でもあります。
 実のところ私にとってはそんなに微分幾何の知識が役立つことはありませんでしたが、分野によってはこういう勉強が役に立つこともあろうということで素直に掲載しておきました。微分形式を勉強しておくことで多変数の微積分の知識の整理にはなったと思います。

物理数学いろいろ(Fourier-Laplace解析・偏微分方程式・特殊関数)

 三年の秋くらいに次の物理数学の本を読みました。

物理数学II―フーリエ解析とラプラス解析・偏微分方程式・特殊関数

物理数学II―フーリエ解析とラプラス解析・偏微分方程式・特殊関数

  • 作者:西森 秀稔
  • 発売日: 2015/09/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
副題にある通り、この本はFourier-Laplace解析・偏微分方程式・特殊関数について書かれている本です。一冊にこの三分野のことがすべて書いてあるのでけっこう個々の部分はあっさりしていますが、実験をやっていくというだけであればこの程度で十分です。
 ここで挙げた三つの数学は物理学においてはすべて必須(特に前者2つ)です。本来これらはかなり高度な分野なので、純粋数学の書籍でこの分野を勉強するのは相当ハードだと思います。しかし、いわゆる「物理数学」の参考書では厳密な部分が大胆にカットされ、私のような人間でもわかる程度の直観的計算に内容が凝縮されています。それでも大変なんですけどね。

磁性

 このころ何を血迷ったのか磁性の本を買って読んだ記憶があります(普通に読めなかった)。

固体の磁性―はじめて学ぶ磁性物理

固体の磁性―はじめて学ぶ磁性物理

今見ると普通にわかりそうなので真面目に読んだら読めたと思うのですが、当時は買って最初の2章くらいで躓いて放り投げてしまいました。けっこう丁寧な本だとは思うのですが、とはいえ磁性は磁性なのでスピンの量子力学がある程度使えることは前提です。磁性をやる人は腰を据えて読む価値がある本だと思います。
 磁性について説明する能力はないので月並みな説明をしておきますが、基本的には固体中の電子が持つスピン角運動量による磁気モーメントが集まって示す性質についての学問です。そこら辺にある磁石は磁気モーメントが同じ方向を向いている強磁性体と言われるような物質なのですが、同じ方向を向くのはなぜかという疑問に答える(答えようとする)のが磁性です(※それだけではありません)。

超伝導

 血迷って超伝導の本も買いました。読んだはずなのに何も覚えていないのはどうして。

超伝導入門 (物性科学入門シリーズ)

超伝導入門 (物性科学入門シリーズ)

  • 作者:青木秀夫
  • 発売日: 2009/05/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
真面目にやるとかなり理論に立ち入らなければならなくなるのでけっこう天下りというか現象論的な説明の多い本ですが、一通り読むとかろうじて実験の論文くらいは読めるようになります。もっと重い本を読む前にざっと眺めるために良い本だと思います(そのために4000円弱払うかどうかは別として)。
 超伝導は有名なので物理と関係ない人でも知っている人は多いと思います。超伝導を説明する理論としてBCS理論というのがあり、多くの超伝導体の性質の解明に役立ってきたのですが、ここ数十年見つかりまくっている高温超伝導体にはあまり適応できないモデルです。高温超伝導を説明したり予言したりするために多くの理論家が湯水のように人生を費やしているのですが、未だ人類は完璧な機構を理解していません。実験家にできるのは実験ですので、理論のことは適度に無視して実験をしましょう(理論を追求したいのであれば理論家になるべきです)。

学部四年生

 ちょっとメンタルが持ち直して真面目に勉強をする気になったものの、勉強より研究が忙しくなってしまって勉強はやはりしていない時期です。まあ学部四年生なんてそんなものです。

専門分野の勉強

 何を読んだのは内緒。専門分野の勉強はまじめにやったほうが良いです(そうしないと卒業しにくいので)。

群論

 固体物理が対象とする物質の中でも、特に結晶について扱う場合には群論の手法が有効です。しかしながら、数学の人が読むような本を読んでもあまり意味がないので次のような本を読みましょう。

物質の対称性と群論

物質の対称性と群論

この本は物理や化学の実験家が読むにはちょうどよい本で、いい感じに群論の応用が学べると思います。端的に言うとITCと指標表が読めるようになればOKでしょう。後半のトピックは自分に関係なさそうな部分を省いて読んでも問題ないと思います。
 「群論」と簡単に言っていますが、物性物理や化学で使うのはいわゆる「有限群の表現論」です。これは純粋数学をやる人のための本を読んでもほとんど書いていないので素直に応用の本を買って勉強する必要があると思います。「表現論」だからといって連続群論の本を買っても無意味です(卒業に寄与しないだけなので無意味は言い過ぎである)。ちなみに私はこの本を全部読んだのですが、この本に書いてある知識が必要になったことは数えるほどしかありません。今思うと時間の無駄だったのですが、まあ隣接分野の論文を試し読みするときなどに役立ったので完全な無意味ではなかったと思いたいです。

電子工作

 実験をしていると回路を作る必要があったりなかったりします。パッと思いついた回路をその日のうちに作れるようにある程度配線のやり方やはんだごての操作に慣れておくと便利だと思います。具体的に電子工作ができるようになるための本を挙げることはできないのですが、ここでは思いついた回路を作るのに便利な本を紹介しておきます。

回路の素101 (ライブラリ・シリーズ)

回路の素101 (ライブラリ・シリーズ)

この本はいわば電子回路における「単語帳」と呼べる本で、この本に書いてある回路を適宜組み合わせることでそれなりに必要な機能を果たす回路を作ることができるはずです。この本以上のレベルの回路が必要なときは、売り物を買うか、きちんとアナログ電子回路の勉強をするか、しかるべき業者に作ってもらうべきだと思います(回路弱者並感)。電子回路(電気回路ではない)はかなり職人芸とかテクニックが必要な世界で、図面上同じ回路を作っても私とプロではSN比が100倍くらい違うこともざらです。熱心に勉強する覚悟がなければ深入りせずレシピ集の寄せ集めで我慢しておくのが賢いと思います。

院試対策

 基本的には市販のテキストや演習所をこなしながら志望する学部学科の過去問をやりこむのがよいと思います。それ以外に面接やら英語やら小論文やらがある学科もあると思いますが、それはまあ適当になんとかしましょう(あまり具体的なことが言えないので先輩などに聞いてください)。ここではいくつか演習書をピックアップしておきます。

演習大学院入試問題〔物理学〕 2

演習大学院入試問題〔物理学〕 2

 これはとても全部解けるような本ではありませんが、持っておくと苦手な分野を集中的に勉強したりするのに便利かもしれません。決してこの本を主軸にしないように。旧版が中古で安く買えるのなら買ってもよいかもしれません。
大学演習 熱学・統計力学

大学演習 熱学・統計力学

これはめちゃくちゃ有名な演習書で、言ってみれば問題の辞書のようなものです。これも全部解くようなものではない(解いている人はいそうだけど)ので、適度に問題をピックアップしたり、自分の受ける大学に出そうな分野を選んで解くのがよいでしょう。 さして特徴があるわけでもないですが、無難に一通りの勉強ができる本です。この本の問題をあえて解析力学風に解いたりしてもよいかもしれません。  これも非常に無難な演習書です。自分が見たことがないタイプの問題を中心に解いておいた方がよいです。
 そのほか、量子力学に関しては上に挙げた参考書それ自体が演習書のようなものなので改めて紹介はしません。物性物理に関しても、私はあまり真面目に勉強しなかったので紹介できません。悪しからず。

修士一年生

 物性実験に限って言えば、修士一年生ならもう勉強より研究の割合が高くなっていておかしくないはずです。少なくとも私や私の周囲ではそうでした。

プログラミング

 実験データの解析を効率よく行うためにプログラミングの勉強をしました(もともとある程度していたのですが)。そこで勉強したのは利用していたグラフソフトに付属の言語だったのですが、そのバックグランドとして次の本で得た知識が役立ったと思います。

新・明解C言語 入門編 (明解シリーズ)

新・明解C言語 入門編 (明解シリーズ)

大学生が初めてプログラミングを勉強するという条件であれば、C言語は必ずしも悪くない選択だと思います。別にC++でもPythonでもRでも何でもいいのですが、とにかくある程度有名で、種々の難易度のテキストが売られている言語を一つくらい勉強しておくとよいと思います。

英語

 これはクソみたいな事実なのですが、物理の業界では英語で研究内容を発表できるのがデフォルトです。自分の発表についてはいつでも英語で説明できるようにしておく必要があります。もしかすると国際学会で発表することになるかもしれませんし、研究室に外国人がいるかもしれません。まあ運が良ければ英語に関わらずに卒業することもあるでしょうが、修士に入る段階で覚悟くらいはしておいた方がよいです。一応参考書を挙げておきます。

英検2級 面接大特訓

英検2級 面接大特訓

別に英検を受けろということではありません。単に、英検2級の面接くらいのレベルの英語がある程度口から出てくるようになっておくとコミュニケーションに困らないなと感じたのでこの本を紹介しました。物理の業界では、正しい英語をしゃべることよりもまず正しいロジックで研究の説明ができることが大事です。英語学習上あまりよくない姿勢ですが、英語力自体の向上よりもまず、シンプルな英語でよいので論理立てて喋ることに専念したほうがよいです。外国人研究者の大半は日本人の下手くそな英語に慣れているので(本当にごめんなさい)、拙くても内容が確かならばきっちり聞いてくれるはずです。

機械加工

 実験をしていると、たまに「〇〇みたいな部品があれば便利なのに」と感じることがあります。そのたびに図面を書いて工作屋さんに依頼していては時間もお金もかかってしまうので、ある程度の機械加工が自力でできると便利です。具体的には旋盤・フライス盤・ボール盤あたりの操作を覚えておくとそれなりのものは自分で作れるようになると思います。私はネットで調べたり複数のテクニック本を見たりしながら適当に勉強したのでここに参考書はリストアップできないのですが、そうした工作機械の設備がある学科だと誰か一人くらいはめちゃくちゃ上手な先輩がいると思うのでその人に教わりましょう。

修士二年生

 修士の二年生なんてのは就活と研究で全てが終わるものです。したがってほとんど勉強なんてしていません。系統立てられたテキストによる勉強をしていないだけで、細かな学びはいくらでもあるのですが。そんなことを書いていると一発で特定されてしまいますからね。ここでは抽象的な能力を一つだけ挙げておこうと思います。

自分の能力を盛る勇気

 これは就活において必要な能力です。一般に、いくらでも"強い"人を見てきた物理出身者の自己評価は非常に低いです。その謙遜の精神は素晴らしいことではあるのですが、残念ながら就活では致命的な要素になってしまいます。物性実験で順当に学生生活を過ごしている人の能力はそれなりに高いはずです。安心して就活では「俺はすごいんだぞ」ムードを出していきましょう。他の学科の人も信じられないくらい能力を盛っているので大丈夫です。いやマジで、「よくそれで『〇〇できます』とか豪語したな……」みたいな人いっぱいいるんで、卑屈になりすぎないようにしましょう。

おわりに

 いかがでしたでしょうか(定型文)。私が6年間で勉強してきたことはだいたいこんな感じです。多いと感じる人もいるかもしれませんし、少ないと感じる人もいるかもしれません。実際私と全く同じ勉強をして大学を卒業する人なんていないと思うので、あくまで参考までにしてください。具体的な教科書を多く紹介しましたが、別に私が挙げた以外の本を読んでも普通に勉強できると思います。テキストの選択も参考までにしておいてください。また、言うまでもないことですが、学部四年生以後の勉強は自分の研究分野の論文を読んでいくことが中心になります。そこに関しては特定を避けるために具体的に書けません。この記事を参考にして卒業を目指そうと思われる方は、指導教員や先輩などの指示を受けながら勉強する必要があります。そのことも忘れないでいてください。
 最後にこのような長い記事を読んでくださった方へ感謝の言葉を申し上げます。ありがとうございました。就職してからもクソ記事を書いていくのでもしよければまたご覧になってください。それでは。